多様性が呼吸する僕たちの街 東京

interview4 BOOKコンシェルジュに聞く

第4回は BOOK 住(建築/住まい)コンシェルジュの嵯峨山 瑛さんです。


ーなぜ建築へ

小学生の時、友だちの家に行き、偶然見たお姉さんの部屋の出窓に衝撃を受けたんです。なんておしゃれなんだろうと・・・。それから、部屋の間取りを見るのが楽しくなり、住宅のチラシを毎週末眺め、どうやら間取りを考える仕事があるらしいということに、たどり着きました。

本を読みに図書館に行き、図書館の外観にしびれるわけです。そこで、興味の対象は建物の中から外へ広がって・・・、もう夢中です。

建築学科に進学しました。デザインやスケッチが必然的に必要になるんですけど、キャンパスには、とんでもない才能の持ち主がいっぱいいて、フィールドはここじゃないと感じましたね(笑)。でも授業は面白かった。断然、都市計画が面白かったんです。設計や製図とは違う人文的な視点から建築を考える講義を聴きながら「僕は、こっちだな」と思いました。

都市って誰のもの?公共空間って何?哲学的な講義がおもしろくて、技術的な建築学より人文的な建築学へ進むことにしました。


ー多様性を学ぶ

大学院のとき、とりあえず海外に行ってみようと思い、ベルギーに半年、ドイツに半年留学しました。いろんな文化やいろんな思想が共存するアンチ消費社会のなかで多様性を意識することになって、視野が広がりましたね。

友人と荒れている建物をかりて改装し、キッチンをつくり日本の文化を紹介するイベントを開催しました。目の前にあるものを工夫することで なんとかなるということ、いろんな暮らし方があることを実感したことは、今につながっています。


ー東京のおもしろさとは

海外で3.11を経験。帰国して亀戸に住みました。

亀戸でユニークな東京の街のユニークさに気付いたんです。家の前の蔵前橋を通過し、浅草、上野、浅草寺、スカイツリーをグルッとランニングしていると、常に発見があって、おもしろい。建物の風景、街の風、住んでいる人の空気感、決して洗練されたものばかりでない東京の街が楽しくてしかたくて。”きれい”だけでは成立しない東京、真正面からだけでなく、斜めに見ると新しい東京が見えてくる。刺激的です。


ー東京を伝える本たち

東京のユニークな建物が紹介されている『超合法建築図鑑』。なぜイビツな建物になってしまったのか、その背景が実に面白い。苦肉の策の連続が建物のイビツさを生んでいる。おもしろいでしょっ。イケてるのかイケてないのかを考えると、意外にイケてる建物ばかりでないのが東京。『メインド イン トーキョー』は、”イケてないけどイケてる”建物が登場します。

計画通りに出来上がった街に正解を見るか、「ゴッタ感」や「ザワザワ感」を含めて街の面白さとするかで、東京の見方は変わってきます。洗練された計算通りの風景、洗練と対極にあるいけてない部分にフタをして漂白してしまう、そんな街の風景に物足りなさを感じることがあります。


『新・ムラ論 TOKYO』は、「サントリー美術館」「GINZA KABUKIZA」など日本を代表する建築家の隅研吾とジャーナリスト清野由美による1冊。ムラの存在を行政的ではなく、人文的に掘り下げ、その必要性を説いたものです。ムラとは何かを考えるとき、必ず都市とは何かを考えなくてはいけない。多様性を意識する価値観と向き合う必要があるわけで、そこが新鮮で興味深いですね。

企業の論理、戦略から生まれた街が予定どおり機能していく都市と、そこにいろんな人が集い、多様性が生まれ、新しい姿を見せ始める都市がある。新しい姿が企業戦略にそぐわない場合もあるわけで、都市は新しい顔で生き続けるわけです。そもそも快適な街というのは、生活者目線の延長にあるもの。それは個々に違ってくるわけだから、多様性が生まれてくるのが自然です。


これも面白いんですよと、手にしたのが『考現学入門』。

昔を考える考古学に対して今を考える考現学。お茶碗のカケ方から銀ブラについてまで、考える対象は枠におさまらない。応えはないだろうなという内容も、トクトク分析し考える、考えることが好きな人には、たまらない1冊です。

「これ、面白いでしょ」「ほら、面白いでしょ」と夢中で話すコンシェルジュに東京の面白さを教えてもらった気がします。



嵯峨山 瑛 1987年3月生まれ

間取り好きから始まって、空間、建物、都市、生活と好奇心を広げ続けた青年は、自らのポテンシャルを無限大に今も進化を続けている。

独自の視点は柔軟で多角的。尽きない興味を熱く語る彼に、私たちの彼への興味も尽きない。