2. 哀愁JAZZに魅せられて
「JAZZの世界へようこそ」の第2回は寒い季節、なんだか切なくて泣きたい夜に聴きたい「哀愁JAZZ」がテーマです。
今回から、ご一緒するのは音楽フロアのK-島野。JAZZに精通したコンシェルジュがJAZZへの想いをたっぷり語ります。
「思い込み」の多さに気づき「なるほど」と頷いてばかりのインタビューは驚きと発見の連続、やっぱりJAZZは素敵です。
ー哀愁JAZZをテーマに選んだのは5作品ですね。
「哀愁というと、まずピアノのメロディーを思い浮かべるかもしれません。でも実は管楽器の方が切なさや哀しみを表現していて、胸にグッとくることが多いように思います。ホーンの入った作品を優先的にセレクト、それからボーカルの入っていないもの、今回はそんな5作品です。
ーたしかに、メロディアスで澄んだ音や哀しい風景を思い浮かべました。
ボーカルだと歌詞で泣いちゃう、歌い手の表情で泣いちゃう…でしょ。今回はそこでなく音で泣けるものというか、いわば熱すぎない哀愁を紹介しようと考えました。哀愁を感じるのは「音」そのもの、言葉を超えるところに深さを感じます。
ーなぜ音で泣けるんでしょう。
一人ひとりの人生を映すからでしょうか。JAZZやJAZZ MANにまつわる話はポジティブなものばかりではありません。すさまじい経験を重ねてJAZZの高みにたどり着いたプレイヤーもたくさんいます。
音が言葉を超えるところが音楽の素晴らしさ。その音を聴きながら、人生に想いをはせたり、想いを広げることで、音楽は深みを増していくのでしょう…。演奏に余白がある、それがJAZZの魅力だと思います。
ー管楽器の哀愁について、教えてください。
たとえば、打楽器であれば、打楽器の音に心が映ります。不思議なことに、その人の苛立ちや怒り、緊張感、もちろんうれしい気持ちや幸せなかんじも、会話せずして伝わってきます。たとえば怒りは叩きつける音というか…。ドラムの音に表情があるんですね。
そして、管楽器。管楽器は息を吹き込んで音を出します。強い息、弱い息、だんだん強くすることも、弱くすることもできる。それが管楽器の表情です。ピアノの場合、たたいた鍵盤の音、一度鳴りはじめた音を意図的にコントロールすることはできないのですが、ホーンは吹きながら息そのものを変化させられます。シンプルですが、それがすごいことで、表情になり、哀愁となるわけですね。
ー音を自分の感情に引き寄せることができる、コントロールできるということですね。
人の声に一番近い楽器がサックスだと言う人もいます。こぶしみたいにうねる音、澄んだ音、つぶしたような音、想像するだけで、いろんな音があり、それが想いにつながるでしょ。
サックスは人工的に開発されたものなので、比較的扱いやすい楽器なんですね。想いどおりに吹ける自由度の高い楽器、だからテクニックを駆使しやすい。狂気の音や破壊的な音など、極端な感情も表現することができるんです。
ーそんな多彩な視点から選んでいただいたのが、今回の哀愁JAZZですね。
はい。それでは、紹介します。
1.Miles Davis 『Workin'』(マイルス・デイビス 『ワーキン』)
ジャズの帝王マイルスの伝説の1枚。レーベルを移籍するために、録音契約が残っていた前レーベルのアルバム4枚をたった2日間で録音してしまったことから、マラソン・セッションと呼ばれる4枚のうちの1枚です。4枚すべてが、ことごとく名盤ということに、驚きます。感動です。
『ワーキン』では、1曲目と3曲目のミュート・トランペットの儚い美しさがまさに哀愁、ぜひ、聴いてほしいですね。
2.Dexter Gordon 『Gettin' Around』(デクスター・ゴードン 『ゲッティン アラウンド』)
メロウなテナーサックスの名手、デクスター・ゴードンの名盤。1曲目『Manha de Carnaval』はカーニバルが終わって夜が明けた朝の寂しさを歌った曲、テナーとビブラフォンの異なる音色がみごとに からみ合うメロディに哀愁を感じます。
3.The Modern Jazz Quartet 『The Last Concert』(モダン ジャズ カルテット 『ラスト・コンサート』
こちらはビブラフォンがフロントのカルテット。管楽器にはない鍵盤打楽器独特の歌い方のニュアンスに注目して聴いてください。ビブラフォン、打った音を後から大きくしたり、あとからニュアンスをつけたりできないので、どちらかというとピアノの仲間と言えますが、ずいぶん表情が違います。涼しげなサウンドが寒い季節に似合います。
4.Herbie Hancock 『Maiden Voyage』(ハービー・ハンコック 『処女航海』)
レコードのA面にあたる1、2曲目は、静けさを感じるサウンドの中にも、激しいインタープレイの応酬を見ることができます。静かに熱いんですよ。トランペットとテナーサックスの2声の使い方が秀逸で、全体に通底する暗く重厚なテーマに、JAZZ MANたちの鬱屈した思いや、哀しみを感じる至極の1枚です。
5.John Coltrane 『My Favorite Things』(ジョン・コルトレーン 『マイ・フェイヴァリット・シングス』)
テナーサックスの巨人コルトレーンの代表作。当時ジャズで使用されることが めずらしかったソプラノサックスで、理性と狂気の合間を静かに行き来するようなコルトレーンのサウンドに脱帽です。それを支えるメンバーたちの織りなす枯れた空気感に身を委ねてほしいですね。
ーありがとうございました。すべて聴きたくなってきました。
ぜひ。
次回は年明けくらいに、さらにJAZZの世界を広げていきましょう。
K-島野
大学でJAZZと出合い、熱い楽器同士のやりとりに とりつかれて今日へ。
スーモーキー感や枯れ感がJAZZの魅力と語られることが多いなか、「JAZZは熱い!」がセオリー。
多様性のある柔軟な視点でJAZZを深く語る。
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