書店の可能性に挑戦する~ちょっと気になる本棚をつくりたい~

interview11 BOOKコンシェルジュに聞く。
第11回は BOOK 人文コンシェルジュの松本泰尭さんです。



ー本との出合いを教えてください。

小学生のときは、こち亀ばかり読んでいました(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)。
テレビではそうでもないのですが、マンガでは意外に毒のある作品なんです。
時事ネタも多くて、そこが、子ども心におもしろくて…。全部読んでますよ。
中学生になってマンガじゃ物足りなくなり、『ハリーポッター』を読みました。そこで、ファンタジーが好きじゃないことに気づき(笑)、夏目漱石や北村薫を読んで”おもしろい”と思う自分を発見しました。
高校生になってからは、村上春樹や村上龍を読み、そこから海外文学に向かうことになったんです。
ドストエフスキー、フォークナー、ガルシア・マルケスなど…、翻訳を楽しむというカタチで、読書の新しい世界が広がりましたね。



ー日本の作家はいかがでしょう。

谷崎潤一郎の『細雪』は、本当に美しい。上中下巻の長編ですが、まったくあきることがありません。文章が豊かです。時代背景は大きく変化しているのに、登場人物の心を覗きながら、「あぁ、そうだよな」と共感できる。
川端康成の作品も、やはり美しい。谷崎潤一郎もそうですが、本当に文章が巧いなあと思います。まったく過剰な表現がないのに、心にしっかり届くし、心が大きく動く。まさに文豪ですね。
『山の音』が大好きなのですが、過度な描写はなく、静かな作品といってもいいかもしれません。淡々としているようで、とても深い、感動します。





ーさらに本の世界へ向かっていくわけですね。

いえ。
それが映像の世界へ進むんです。大学生になったころ、映画を撮ろうと思っていました。でも、世界はやっぱり広くて、キャンパスで、圧倒的な才能を目の当たりにして、打ちのめされて…。映画をつくることは意外に早く断念しました(笑)。それでも、映画づくりにはずっと携わって、3、4年のときは、ほとんど作品に出演する側でした。コメディ映画にも出演しましたよ。

その時代を経て、やっぱり「ものづくりが好き」なことに気づいたんです。
つくったものを届けたいですし、届けられたひとの顔を観るのも好きなんです。どんな表情をして観てるんだろうと…。「ものづくりの素晴らしさ」と「ものづくりを届けられたこと」を体感できる仕事について考え始めるようになりました。

そんなことを想い始めていたとき、二子玉川 蔦屋家電でコンシェルジュを募集していることを知って、これだ!と思いました。本棚をつくる、お客さまが本を手にとる様子を観ることができる、これだって。

すぐに応募して、現在に至る…です。
ぼくの本棚はまだまだですが、試行錯誤しながら、毎日いい刺激を受けながら働いています。




ーコンシェルジュという仕事、どう広がっていくんでしょう。

海外文学にはこだわりたいんです。海外文学って、売れているジャンルとは言い難い。縮小してるし、絶版しやすいし、重版しないし…。あえてそこに挑戦したい、海外文学を充実させたいんです。「あおる海外文学」とでも言いますか、海外文学にチカラを入れてるんだと思っていただけるお店にしたい。蔦屋家電に行けば、あの1冊がある!という本棚をつくりたいですね。

二子玉川の蔦屋家電に、ちょっと気になるコンシェルジュがいるよね…そんな存在になりたいんです。お客さまといい距離感をつくりたいですね。


ーさいごにおすすめの本を

村上龍の『走れ!タカハシ』です。『限りなく透明に近いブルー』『コインロッカー・ベイビーズ』の村上龍とはまったく違う村上龍を体感できて、とにかく痛快でおもしろい。カープファンでなくても、笑いに笑って楽しい気持ちになれるユーモアにあふれた1冊、元気が出ますよ。

海外文学だと『屋根裏の仏さま』。かつてアメリカへ嫁いだ日本の女性たち一人ひとりの声を「わたしたち」と表現した哀しくも美しい1冊、翻訳の素晴らしさを堪能できます。





松本 泰尭(まつもと やすたか)

1986年生まれ
二子玉川 蔦屋家電を代表するすてきなメガネ男子。
人文コンシェルジュの肩書きからふくらむ想像とは違い、個性的でユニークな話に花が開く。
仕事に対する静かな情熱と、お客さまに対するまっすぐな視線が印象的なコンシェルジュだ。